あまり知られていない?田畑や山林の価格
「田畑価格及び賃借料調」、「山林素地及び山元立木価格調」
スタート以来この「相続最新トレンド」コラムでは、相続財産として主に「宅地」を想定しながら執筆してきました。しかし、当然ながら相続対象の不動産資産には田畑や山林もあり、その資産価格は当事者にとって関心の的であるはずです。恥ずかしながら筆者自身も普段はあまり注意を払わず目にする機会も少ない田畑、山林の価格や賃借料について、一般社団法人 日本不動産研究所による「田畑価格及び賃借料調」と「山林素地及び山元立木価格調」(いずれも2017年3月末現在)という調査結果リリースを紹介しながら、田畑や山林の価格動向について今回のコラムを書きすすめたいと思います。
参考 http://www.reinet.or.jp/?p=19774
25年連続で下落が続く田の価格
一般的には土地価格はその土地を用いた事業(農業、建物賃貸業など)によってもたらされる期待収益の多寡によって上下すると考えられます。その原則に従うように、2年連続の米価上昇によって今回の調査結果では田の価格も下落幅の縮小が見られると書かれています。ただし現実には1993年以降、なんと25年も続けて下落していて、調査結果の全国平均価格は10a(1000㎡)で72万4839円、前年調査からは2%の下落幅だったそうです。畑についても1992年以降26年連続で価格は続落していて、調査結果の全国平均価格は43万9618円、前年調査から1.2%の下落となっていたそうです。公示地価による土地価格の推移は一部都市部に限れば上昇局面に入っていることを考えると、宅地と田畑では価格トレンドに大きな差があると言えます。
また、公示価格で下落傾向が続く地価の背景として人口・世帯の流出や産業の撤退など当該地域での宅地需要の低下が主な理由に挙げられています。この調査では価格下落の理由についても調べられています。複数回答による上位回答は「農業後継者の減少」、「高齢化」、「買い手がいない」、「米価の下落」、「農業経営の先行き不安」の順で挙げられています。何の理由からも田の需要そのものの縮小(低下)につながる回答であり、調査報告でも田の需給が緩和状態にあることとされています。畑の価格下落動向の理由も回答の順位の違いこそあれ、需給が緩和状態にあることが背景にあることが報告されています。
山林価格も同様の傾向
田畑だけではなく、山林素地価格は(用材林地、薪炭林地とも)1992年以降26年連続の下落となっており、用材林地は前年比1.6%マイナス、10a(1000㎡)4万2800円、薪炭林地は前年比0.7%のマイナス、2万9503円という結果だそうです。こうした傾向の背景、価格下落の理由を尋ねたアンケートでも「木材価格の下落」、「林業経営の先行き不安」、「林業後継者の減少」、「高齢化」と回答が続き山林の買い手がいない、需要不足の状態が言及されています。
未来の需要は地域で作る?こういう考え方への転換が資産価値の回復のカギ
時々の一次産業政策によって農業や林業の産業としての将来性が翻弄されたことで農業や林業の産業競争力は高まらず、結果として産業自体の持続可能性が危ぶまれ農地や山林価格の継続的な下落傾向の一因となっていることがうかがえる調査結果でした。このコラムでは過去の政策の是非や今後の方針を問うことが目的ではありません。ただし家計が持つ資産としての田畑、山林の価値を高めるためにできることを考えるのは都市生活者にとって宅地の価値を高めるためにできることを考えるのと全く同じです。すでに起こりつつある国内の人口、世帯数減少に連なる需要縮小によって起こる変化を乗り越えるために、これまでにない創意工夫が求められるということです。
もちろん地域の地価を引き上げるというのは個人の力だけでは解決できないことです。むしろ産業や時には政治的な判断も必要な問題です。こうした問題を解消するにあたって宅地、農地、山林に共通していることは、せっかく蓄えてきたストック(資産)をどう活かすかを考える時代に入ったということだと考えます。