人口減少時代の土地問題から考えること
『人口減少時代の土地問題』から考えること
今年の7月、『人口減少時代の土地問題―所有者不明化と相続、空き家、制度のゆくえ―』(中公新書、吉原祥子)という新書が出版されました。今回はこの本で示されている話題を中心に紹介を中心に話を進めたいと思います。
この本は著者の吉原さんが所属する東京財団が2009年から取り組んでいる「国土資源保全」研究プロジェクトの成果をもとに書かれたそうです。同書では、それまであまり使われてこなかった「所有者不明化」という言葉とともに、国内の私有地のおよそ20%が所有者のわからない土地であるという衝撃的な情報が公開されています。
所有者の意識を変える社会の変化
著者の吉原さんの指摘によれば、所有者不明化の背景には登記が任意であるという制度課題はもちろん、それ以上に社会構造の変化による土地の資産性の変化があると言っています。
地域のコミュニティや人間関係がしっかりあることで所有意識も維持され、所有者情報も確認されやすくなるが、都市への集住が進み所有不動産の所在地と居住地が別になる、いわゆる不在地主化の進行や地域の人口減少によって「誰の土地か」を認識しあう人間関係が減ること、さらに人口減少による使用価値の低下がもたらす資産価値の低下も相まって、ますます資産に関する関心が低下するという点を指摘されています。
つまり社会構造がもたらす悪循環と制度の不備が重なった結果ということですが、人口や世帯数の変化や居住地の偏在といった社会構造の変化に対して、個人が持つ資産価値の変化の程度を自身の思惑や取り組みだけで変えることは大変なことです。せめて出来ることは、家族が持つ個々の資産を取り巻く環境は常に変わるのだと理解しておくこと、そして自分達は資産をどのような使って行きたいのか、を常日頃から考えておくことです。
政策的解決へのアプローチと家族の備え
土地所有者不明化問題を解決するにあたって、著者の吉川さんは本の中で三つの政策論点を示されています。一つは、現在(相続などで所有権移転した際に)任意となっている「登記制度をどうするか」、二つ目は制度に関連して最新技術を用いた個人の情報と資産情報を連結させるなど「情報基盤のあり方」の議論です。
ここまでの二つの話は制度設計の話なので確かに個人一人一人が自身で何とかするという論点ではないと思います。政策論点として提示されている三つ目の「当面利用予定のない土地をどのように次世代に継承していくのか—-受け皿の問題」について、これも確かに政策的なアプローチによる解決策の設計もあるとは思います。吉川さんの提案する「利用価値がある段階で、寄付や中間組織に預けるなど多様な選択肢を整える」ことの重要性はうなずけます。
一方で、当面利用予定のない土地をどのように次世代に継承するかという論点は、実は家族が自分達の持つ財産をどのように扱いたいかということを考えることに他なりません。つまり不動産資産を持つ家族の計画的な資産マネジメントというレベルの話です。その点では、前回のコラム「資産の価値を日常的に把握する」でも書いたように、相続や資産の組換えをする「まさにその時」に慌てて資産価値を把握するのではなく、思い通りの引き継ぎの実現やより資産価値を高める(減らさない)ためにも、日頃から地域市場のリアル情報を入手することも大事なことだと考えます。
家族の備えと不動産相続
繰り返しになりますが、思い通りの引き継ぎの実現やより資産価値を高める(減らさない)ためにも、日頃から地域市場のリアル情報を入手するためには、「情報」が重要です。情報と言っても、単なる取引価格や公示価格といった市場価値を把握するための情報ではなく、たとえ自分にとっては利用価値が低下した不動産(土地)であっても、その地域に埋もれるニーズを掘り起こしてその不動産(土地)をどのように利活用するか、というアイデアこそ思い通りの引き継ぎの実現やより資産価値を高める(減らさない)ためは重要な情報であるといえます。
「利活用のアイデア」というキーワードは家族の幸せと資産の持続可能性を高めるうえで、そしてこれからの不動産相続を考えるうえで重要なキーワードだと思います。